技術試験衛星(シリーズ衛星)
「技術試験衛星」は、日本の軌道上技師実証プラットフォームの一つ。略称は「ETS」。我が国の宇宙活動において、基幹ロケットに並ぶフラッグシップミッションとしての位置付けを占め、「きく」衛星シリーズとしても知られる。2025年までに8の技術試験衛星プロジェクトが実施され、現在、9番目の技術試験衛星9号機(ETS-9)プロジェクトが進められている。
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1960年代の我が国の宇宙開発黎明期に科学技術庁などが提唱した「ロケットの性能確認」及び「各種の人工衛星に共通な技術の開発のために行う」「基礎実験衛星」に由来する。
旧宇宙開発委員会、旧科学技術庁及び旧宇宙開発事業団は、1975年の技術試験衛星1型「きく」(ETS-1)の「実験」によりNロケットによる人工衛星打ち上げ能力と追跡管制技術の獲得を嚆矢として、1977年の技術試験衛星2型「きく2号」(ETS-2)及び1981年の技術試験衛星3型「きく3号」(ETS-3)により静止衛星技術を実施した。ETS-3打上げの翌年、技術試験衛星4型「きく4号」(ETS-4)では後の地球観測衛星を見据えた3軸姿勢制御と太陽電池パドルの技術実証を行い、1987年の技術試験衛星5型「きく5号」(ETS-5)では、静止3軸衛星バス技術の実証を進め、1994年の技術試験衛星6型「きく6号」(ETS-6)においてより大型の静止3軸衛星バスの実証に成功している。さらに、1997年の技術試験衛星7型「きく7号(おりひめ・ひこぼし)」(ETS-7)では、チェイサ衛星の「ひこぼし」が、ターゲット衛星の「おりひめ」に対して、複数回の分離・ドッキングを実施し、ランデブ・ドッキング技術を獲得した。2006年の技術試験衛星8型「きく8号」(ETS-8)では、世界最大級(テニスコート1面分に相当)の大型展開アンテナ2基による通信衛星技術を実証し、またETS-8による静止衛星バス技術は、我が国の実用衛星に多用される標準バスDS2000の原型へと発展した。
このように、技術試験衛星「きく」(ETS)シリーズの各型は、長く、我が国において各世代におけるバス系機器や実用衛星技術の実証を目的としたものであり、「型」のナンバリングとおり、我が国の実用衛星、とりわけ通信衛星や気象衛星等の静止衛星に対する「テンプレート」を実証する役割を担ってきたと言える。なお、現在開発中の技術試験衛星9号"機"(ETS-9)においては、「型」の字を用いていないが、これの意味するところは必ずしも明らかにされていないものの、官民における宇宙機開発の多様化・高頻度化に伴い、必ずしも国が「型」を定める必要がない時代を反映したものとも解される。