開発基本問題に係る外部諮問委員会(ゴールディン委員会)
「開発基本問題に係る外部諮問委員会」は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が設置した理事長の助言機関。「ゴールディン委員会」とも通称される。環境観測技術衛星「みどり2」及びH-2Aロケット6号機等の一連の失敗を踏まえ、元米国航空宇宙局(NASA)長官のダニエル・S・ゴールディンを委員長とし、各国の宇宙機関の最高幹部経験者等を委員として、2004年6月から2005年3月にかけて、「中長期的な観点から、より確実な開発・打上げ・運用を実現する方策」を答申した。ゴールディン委員会の答申内容については、JAXA内部の「開発業務・組織検討委員会」において、「日本の実状に合わせた最良の形にテ―ラリングしつつその実現を図る」形で受容され、最終的にJAXA自身の改革方針である「ミッションサクセスのための開発業務改革実施方針」へと反映された。
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(C)JAXA |
ゴールディン委員会に関与した当時のJAXA職員は、後年、「ゴールディン元長官からはたった一つ」、システムエンジニアリングの考え方が「全くできていないという指摘」を受けたと回顧している。ゴールディン委員会は21の所見を含む答申をまとめており、「システムエンジニアリング」の強化のほか、技術成熟度(TRL)の導入、専門技術組織によるプロジェクト支援、プロジェクトに対する独立評価、及びプロジェクト移行前の合意形成など、現在のJAXAにも継承されるプロジェクトマネジメントの仕組み構築を示唆している。ゴールディン委員会は、2005年3月23日にその答申をJAXAの立川敬二理事長へ手交し、JAXAが「世界クラスの位置づけを得られるであろうと確信を持っている」との激励を残した。
〇答申内容(「開発基本問題に係る外部諮問委員会最終報告書」要旨)
- JAXAがその活動の多くをプライム企業に移転していくこと
- JAXAの中核機関としての役割、及びプライム企業に対する「賢い顧客(Intelligent customer)」としての役割、並びにそれらを補完するシステムエンジニアリング(SE)能力、安全・開発保証(S&MA)能力、及び専門技術能力の保持
- 機関レベルの、公式・非公式なレビュー(プロジェクトの進捗状況をモニターする定期的な経営レベルのレビューを含む)の追加
- 企業との役割分担の明確化、並びに政策決定者、国民等の理解獲得
- 「JAXA職員が、決められたミッションと予算とスケジュールの制約のもとで非常なストレスに直面している」ことへの確信と、「ミッションの達成目標と与えることのできるリソースに不整合がある場合には、当初のミッションサクセスクライテリア、予算あるいはスケジュールを変えるだけのフレキシビリティを与える」ことによる解決
〇所見(前同)
- リソース計画と整合した単一のビジョンと戦略計画を策定すること
- 経営層の責任において、文化と組織を「One JAXA」へと統合すること
- 予算制約の下、JAXAが優先順位付けを行い日本国民に最も大きな影響と利益があるプロジェクトに集中を図ること
- 「学習する組織」への転換
- サプライチェーン全体を通して、開かれた信頼の文化を引き続き構築すること
- システムズエンジニアリング組織(SEO)の設置
- ミッションデザインセンター方式の採用
- 全てのプロジェクトに対する独立評価検証プロセスの適用
- 安全・開発保証組織の設置
- 専門技術組織の設置と、これによるプロジェクトに対するマトリクス支援、及び技術開発
- 技術成熟度(TRL)の導入
- 独立評価の実施
- プロジェクトをオーバーサイトする委員会の設置
- 人材の開発に向けた訓練プログラムの確立
- プロジェクトマネージャの認定手続きの整備
- プロジェクト移行に先立つ合意形成
- 利害関係者及び政策決定者への働きかけの強化
- JAXAの衛星活動と地上のユーザー(国民及び民間企業)のニーズとの接続
- 宇宙航空以外の産業界との関係の拡大
- 打ち上げ機会が少ないという環境に対応した将来のロケットの構成への安定した手法の確立
- あらゆる可能性のある部分において衛星のコア・モジュールやシステムズエンジニアリング活動を共有化すること
〇構成
委員長 ダニエル・S・ゴールディン(元NASA長官)
委員 ダニエル・R・マルビル(元NASA副長官補)
委員 サミュエル・L・ベンネリ(元NASAチーフテクノロジスト)
委員 アラン・ベンスーソン(元仏国立宇宙研究センター総裁)
委員 ヤン・バルデム・メニケン(元独宇宙公社長官)
委員 西田篤弘(元文部省宇宙科学研究所長)
委員 谷口一郎(三菱電機株式会社会長)
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